【解説】政府はなぜオンラインカジノの違法性を明言しないのか?──賭博罪に関する曖昧な答弁の背景を読み解く

◆ 質問主意書が投げかけたオンラインカジノのグレーゾーン
2013年10月、衆議院議員・階猛氏により「賭博罪及び富くじ罪に関する質問主意書」が国会に提出された。この質問は、近年国内でも利用者が急増しているインターネット経由のオンラインカジノについて、明確な法的判断を政府に求めたものである。
主な論点は以下の通りである。
- 日本国内からオンラインカジノ(海外サーバ)にアクセスしてプレイする行為は違法か?
- サービス提供者(運営者)が海外にいる場合、共犯として処罰できるのか?
- 共犯関係の一方が国外にいて処罰できない場合、もう一方(国内プレイヤー)に罪が成立するのか?
- 海外の宝くじを代行業者経由で購入する行為は違法か?
- これらの行為が違法となりうることを政府は広報すべきではないか?
オンラインカジノを巡る法的グレーゾーンに対し、明確な線引きを国に求める内容であり、多くの国民にとっても関心の高い問題であった。
◆ 政府の答弁は「差し控える」「可能性がある」に終始
これに対して政府が出した答弁書は、以下のような表現に終始した。
- 「一般論としては、賭博罪や開張図利罪が成立することがある」
- 「犯罪の成否は、捜査機関が収集した証拠に基づいて個々に判断すべき事柄」
- 「政府としてお答えすることは差し控える」
つまり、政府は賭博罪に当たるかどうかの明言を避け、**「個別に判断すべき」「場合によっては成立する」**という極めて曖昧な表現にとどめたのである。
◆ 法律上の論点は、すでに整理可能である
刑法185条の賭博罪は、原則として**「必要的共犯」**、すなわちプレイヤーと開帳者の相互行為によって成立するものである。開帳者が国外にいる場合、その共犯関係の成立、処罰の可能性、そして片方だけの処罰が可能かどうか――これらは既に法律学の分野でも重要な議論となっている。
にもかかわらず、政府はこの点についても明言を避けている。
◆ なぜ政府は明言しないのか?
ここで生まれる疑問は、「なぜこれほどまでに政府は明確な判断を下そうとしないのか?」という点である。
その背景には、以下のような事情があると推察される。
1. 法運用上の責任回避
「捜査機関の判断に委ねる」という表現は、法務省・警察庁・検察の裁量の余地を確保したいという官僚機構の論理である。違法性の判断を一律にすると、今後の運用に支障が出る可能性があるからだ。
2. 技術の進化による法適用の困難性
インターネットという国境を越えた媒体を通じた賭博行為は、現行刑法が想定していなかった事態であり、法的解釈を誤ると冤罪や不当逮捕のリスクが生じる。政府としては、そのリスクを極度に回避したいという意識があると見られる。
3. そして最大の理由は「利権構造」か?
政府がオンラインカジノの問題に腰が重いもう一つの可能性は、利権との関係である。
近年、IR(統合型リゾート)構想やカジノ解禁に伴い、国内外の資本が水面下で動いていると言われている。暴力団や反社会勢力が関与する疑いがある一方で、警察OBが関与するオンライン業者や広告代理店も存在するとされる。
このような利害関係が複雑に絡み合っている領域において、政府が明確な違法性を示すことは、結果として特定勢力を敵に回すことになる。それを避けるため、政府は「一般論」「可能性がある」「差し控える」といった曖昧な言い回しを選ばざるを得ないのではないか?
◆ 終わりに:国民の「無知」に依存したグレーゾーン
刑罰法規とは、「してよいこと」と「してはならないこと」の境界を国民に明確に示すものでなければならない。しかし、オンラインカジノをめぐるこの答弁は、その義務を放棄したかのような内容である。
違法かどうかが分からないまま、知らずにクリック一つで罪を犯すかもしれない状況が続いている。そして、そのグレーゾーンの中で誰かが儲け、誰かが損をしている。
果たしてそれは、法治国家と呼べるのだろうか?
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