【闇深】阿武町4630万円誤送金事件──全額オンラインカジノで消失、それでも“賭博罪”は問われず

山口県阿武町が誤入金した4630万円の大半を決済代行業者の口座に振り替えたとして、電子計算機使用詐欺罪に問われている田口翔被告(25)の判決が28日、山口地裁で言い渡される。検察側が懲役4年6カ月を求刑する一方、弁護側は一貫して無罪を主張。同罪を構成する「虚偽の情報」の入力をめぐり真っ向から対立しており、裁判所の判断が注目される。
2022年に発覚した「山口県阿武町4630万円誤送金事件」は、全国に衝撃を与えました。話題となったのは、コロナ対策の給付金4630万円が、ある一人の男性の口座に誤って送金され、そのほぼ全額がオンラインカジノに送金されたとされる点です。
世論やメディアでは、「給付金を違法なオンラインカジノで使い果たした無責任な若者」としてこの事件がセンセーショナルに報じられました。だが、ここで注目すべきは、「賭博罪(刑法185条)」が一切適用されていない、という事実です。
■ 適用されたのは「電子計算機使用詐欺罪」
この事件で主犯とされた田口翔被告に対し、検察が適用したのは「電子計算機使用詐欺罪」(刑法第246条の2)でした。この罪は、ATMやオンラインバンキングなどの電子システムに虚偽の情報を入力し、不正に金銭を取得した場合に適用されます。
裁判では、田口被告が「誤って振り込まれたお金だと知っていたにもかかわらず」、そのままネットバンキングを用いて資金を複数の決済代行会社などに送金したことが、「虚偽の情報による不法な利益の取得」と判断されました。
■ なぜ賭博罪は適用されなかったのか?
一方で、メディアが大きく取り上げた「オンラインカジノ利用」について、司法はほとんど触れず、賭博罪の適用もありませんでした。その理由は主に以下の点にあります。
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オンラインカジノの運営主体が国外であること:刑法上の「賭博罪」は、日本国内で行われた賭博行為が対象。オンラインカジノは基本的に海外ライセンスで運営されており、実際の賭博行為がどこでなされたかを立証するのが極めて困難です。
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ユーザー側の立件は慎重に行われる傾向:日本の司法は、オンラインカジノの「利用者」への賭博罪の適用については、過去に不起訴事例もあり、慎重な姿勢を取っています。
したがって、田口被告の行為が「違法な賭博への関与」としてではなく、「誤送金と知っていながら虚偽の送金操作を行った」という行為そのものが裁かれたのです。
■ メディアの報道と世論の乖離
ここで問題となるのは、報道の姿勢です。多くのメディアが「オンラインカジノ」「ギャンブル依存症」「4630万円を全額使った愚か者」といったセンセーショナルな語り口で事件を描写しましたが、司法判断ではオンラインカジノ利用そのものは犯罪として扱われていません。
このギャップが、事実に基づかないイメージの形成を助長し、冷静な議論や法制度の是正を妨げている可能性があります。
■ 終わりに
この事件は、給付金誤送金という行政上の大失態と、送金先である被告の対応が重なって社会的な注目を集めました。しかし、司法が冷静に見ていたのは「金をどう使ったか」ではなく、「金をどう移動させたか」だったのです。
賭博罪が適用されなかったという事実は、単なる捜査上の判断ではなく、日本の賭博罪構成要件の限界を示すものでもあります。
次回は、この事件を「マネーロンダリング視点」から考察し、オンラインカジノを利用した資金隠しの可能性について深掘りしていきます。
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