吉本芸人は略式起訴、警察官とプロ野球選手は不起訴──オンラインカジノ賭博にある「不可解な線引き」の正体とは?

オンラインカジノに関する賭博事件が相次ぐ中、同じ「オンラインカジノを利用した賭博行為」でありながら、略式起訴となる者と、不起訴処分となる者の違いが、改めて注目されている。
2025年5月22日:吉本芸人6人が略式起訴
2025年5月22日、警視庁により書類送検されていた吉本興業所属のタレント6人が、賭博罪で略式起訴されたことが報道された。
対象となったのは以下の6人である。
- ダイタク・吉本大(40)
- ダンビラムーチョ・大原優一(35)
- 9番街レトロ・なかむら★しゅん(31)
- ネイチャーバーガー・笹本はやて(33)
- プリズンクイズチャンネル・竜大(31)
- 同チャンネル・最強の庄田(35)
略式起訴されたのはお笑いコンビ「ダイタク」の吉本大(40)、「ダンビラムーチョ」の大原優一(35)、「9番街レトロ」のなかむら★しゅん(31)、「ネイチャーバーガー」の笹本はやて(33)、「プリズンクイズチャンネル」の竜大(31)、最強の庄田(35)の各氏。
区検によると、6人は2023年1月~24年12月ごろ、海外のオンラインカジノサイト「スポーツベットアイオー」などにアクセスして賭博をしたとされる。
吉本興業は「関係者およびファンの皆さまにおわびする。オンラインカジノの利用が判明したタレントは厳重注意処分とし、今後二度と違法行為に及ばない旨の誓約書の提出を受けた」とのコメントを出した。
出典:時事ドットコムニュース、ウェブ魚拓
彼らは、2023年から2024年にかけて、オンラインカジノサイト「スポーツベットアイオー」などで、バカラやスポーツベッティングを行ったとされる。警視庁の任意の調べに対し、いずれも容疑を認めていたという。
吉本興業は同日に「全所属タレントへのコンプライアンス研修を改めて徹底する」と発表した。
対照的な処分:不起訴となった警察官とプロ野球選手
一方で、同様にオンラインカジノを利用していたにもかかわらず、不起訴となった事例も存在する。
佐賀県警の巡査(2024年事案)
2024年6月、佐賀県内の警察署に勤務する若手巡査が、勤務中にスマートフォンを用い、海外の違法オンラインカジノでポーカーをプレイしていたとして書類送検されたが、最終的に約1年後の2025年4月に不起訴処分が確定した。検察は詳細を明らかにしていない。
プロ野球・オリックス 山岡泰輔選手(2025年4月)
さらに注目されたのが、プロ野球・オリックス所属の山岡泰輔投手のケースである。
2025年4月23日、大阪地検は山岡選手を不起訴処分とした。山岡選手は以前より、ライセンス取得済みのオンラインカジノで行われたポーカーのトーナメントに参加していたとされ、オリックス球団も一時的に活動を自粛させていた。
卓球・丹羽孝希選手は略式起訴
なお、卓球選手・丹羽孝希氏については一部で誤報も見られるが、彼は2024年、オンラインカジノの利用により罰金10万円の略式起訴処分を受けている。不起訴ではないことに注意が必要だ。
実際に「不起訴」を勝ち取った弁護士も存在する
また、逮捕された上で処罰を免れた数少ない例として、津田岳宏弁護士(コールグリーン法律事務所)が手がけた事案がある。津田弁護士によれば、「日本でただ一つ、逮捕されたオンラインカジノ利用者が不起訴となった案件」とのことで、現実に刑事処分を免れた実例が存在することを示している。
処分の違いを分ける“基準”はどこにあるのか?
ここで重要な疑問が浮かぶ。
「同じオンラインカジノ賭博行為」で、なぜ処分が分かれるのか?
その答えは、現時点では公開されていない捜査資料や、検察の総合的判断に依拠するため、完全に明らかではない。しかし、以下のような要素が考慮されていると推察される。
- 賭博の頻度と期間
- 賭け金の多寡
- 使用していたオンラインカジノのゲーム種類(バカラ、ポーカー、スポーツベッティング)
- 具体的なオンラインカジノサイト名の有無
- 社会的立場(公務員、芸能人、アスリート)
- 自供の有無と捜査への協力姿勢
- 「誰かと共犯」だったか否か等
「制度としての線引き」は存在しない
2013年10月、衆議院議員・階猛氏により「賭博罪及び富くじ罪に関する質問主意書」が提出された。これに対して政府が出した答弁書は、以下のような内容に終始していた。
「犯罪の成否は、捜査機関が収集した証拠に基づいて個々に判断すべき事柄であり、政府としてお答えすることは差し控える」
「一般論としては、賭博罪や開張図利罪が成立することがある」
つまり、政府は賭博罪に当たるかどうかの明言を避け「個別に判断すべき」「場合によっては成立する」という極めて曖昧な表現にとどめたのである。
グレーゾーンの正体とは何か
世間では「オンラインカジノはグレーゾーン」と語られる。しかし、この“グレーゾーン”とは何を意味するのか。
それは「合法か違法か分からない」という意味ではなく、「起訴か不起訴かが予測不能」「白にも黒にも染まらず、処分が個別にバラバラである」という運用上の曖昧さを指している。
グレーゾーンとはまさにこのことであり、不起訴と略式起訴が混在し、逮捕されても無罪、または不起訴になることすらある。「賭博罪が成立する可能性がある」という建前と、「不起訴になる可能性が高い」という実態。この乖離こそが、グレーの正体なのだ。
線引きが曖昧なままでは処罰の正当性は担保されない
同じオンラインカジノ利用でも「略式起訴」と「不起訴」が並存する現状は、一般市民にとって法の運用が不透明に映るものだ。
今回の吉本芸人らの略式起訴は、あくまでオンラインカジノに対する処罰の一例にすぎない。一方で、不起訴となった警察官やプロ野球選手の事例が存在する以上、「何が違いを生んだのか」という問いへの明確な説明なしに、処罰の正当性を国民が納得することは難しい。
今こそ、オンライン賭博に対する刑罰の在り方そのものを問い直す時期に来ているのではないだろうか。
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