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オンラインカジノは単純賭博罪を構成するか?──「必要的共犯」論と木曽崇氏の判例解釈の誤謬

はじめに:オンラインカジノと刑法の誤解

2013年11月12日、Yahoo!ニュースに掲載された木曽崇氏(国際カジノ研究所所長)の解説記事において、オンラインカジノの違法性を論じるなかで、「賭博罪は必要的共犯である」という主張は過去の最高裁判例によって否定されていると明言された。しかし、氏が根拠とした昭和24年1月11日最高裁判決(常習賭博被告事件)は、果たしてそのような趣旨で引用可能なものであろうか。本稿では、この判例の正確な文理解釈と、賭博罪における「必要的共犯」論について、実務的・学術的観点から再検討する。

そして、最後にダメ押しです。繰り返しになりますが「海外にサーバーを置いたネット賭博は違法ではない」とする方々の最も大きな違法性回避の根拠が、「賭博罪は必要的共犯である」ということなのですが、実はその主張そのものを否定した過去の最高裁判例が存在します。

常習賭博被告事件

【事件番号】最高裁判所第2小法廷判決/昭和23年(れ)第1340号

【判決日付】昭和24年1月11日

【判示事項】

一 不當拘禁中の勾留日數を本刑に算入しなかつたことと憲法第三四條

二 常習賭博罪と賭博開帳罪との關係

三 共犯者中賭博開帳犯人の有無と賭博常習性の認定

【判決要旨】

一 たとい被告人等に對する勾留が不當なものであつたと假定しても、それに對しては各種の救濟の方法を規定しているのであつて、その未決勾留日數を本刑に算入しなくても憲法第三四條に違反するものではない。

二 常習賭博罪と賭博開帳罪とは刑法第一八六條の第一項と第二項とに分けて規定されて居るのであつて、もともと兩罪は罪質を異にし、且その構成要件も何ら關聯するところがないのであるから、兩罪が同一條件下に規定されて居るからと云つて、所論のように不可分の關係にあるものと即斷することは出来ないし、又兩罪は全然別個の犯罪事實に關するものであるから、所論のように正犯と從犯の關係にあるものでないことも極めて明白である。

三 賭博常習性の有無は専ら、各被告人個人の習癖の有無によつて決せられることであるから、本件賭博の共犯者中に賭博開帳罪に該當するものがなく、又同罪によつて處斷されたものがなかつたとしても、それによつて被告人兩名に對する常習賭博罪の成立が阻却される理由は少しも存しない。

出所:https://www.hanreihisho.net/cgi-bin/eoc/hanreibodyctl.cgi?DOC=/docs/HANREI/HSRD0L/0410/00410002.html&HWORD=HS

という事で、以上、「オンライン賭博は違法である」でFAであります。

出典:Yahoo!ニュースウェブ魚拓


1. 賭博罪の基本構造と「必要的共犯」

刑法において「必要的共犯」とは、ある犯罪が成立するために、複数の行為主体が不可欠であるという性質を意味する。典型例は贈収賄罪であり、贈賄者と収賄者の両者がいなければ構成され得ない。同様に、賭博罪(刑法185条・186条)においても、賭博を開帳する者(主催者)と、それに参加する者(顧客)の双方が存在しなければ賭博という行為自体が成立しないという見解が有力である。

刑法の構成:単純賭博と常習賭博・賭博場開張図利

  • 単純賭博罪(185条):賭博行為に参加した者を処罰対象とする。
  • 常習賭博罪(186条1項):賭博行為を常習的に行った者を重く処罰。
  • 賭博場開張図利罪(186条2項):営利目的で賭博を開帳した者を処罰。

単純賭博罪が成立するためには、必ず相手方がおり、したがって一方のみの処罰(例:国外サーバー経由での参加)に法的困難が生じうることから、「必要的共犯性」が論じられてきた。


2. 昭和24年最高裁判決の正確な理解

木曽氏が引用した判例は、以下のものである。

  • 最高裁判例 昭和24年1月11日 第二小法廷 判決 昭和23年(れ)第1340号

この判決の趣旨は以下の通りである。

「常習賭博罪と賭博開帳罪とは刑法第一八六條の第一項と第二項とに分けて規定されて居るのであつて、もともと兩罪は罪質を異にし、且その構成要件も何ら關聯するところがない」

この文言から読み取れるのは、**常習賭博罪(186条1項)と賭博場開張図利罪(186条2項)**の間に共犯的連関を見出すことはできない、というものである。つまり、「必要的共犯でない」というのは、この両罪の関係についてであって、単純賭博罪(185条)との関係には一切言及していない。よって、同判決を根拠に「単純賭博罪が必要的共犯でない」と解するのは明白な拡大解釈である。


3. 学説上の整理:「必要的共犯」とネット賭博

学術的整理とネット賭博事情

以下の学術的検討(JIRG論稿)によれば、賭博罪は必要的共犯であるという立場が妥当である。

「賭博罪は必要的共犯と考えられる以上、相手方のいない賭博行為というものは、制度上観念されていない」

この見解は、刑法制定当時の技術水準(明治期)を前提としているため、相手方がネット越しに外国に存在する場合、日本法による処罰は「構造的に困難」とされることが多い。

教科書的理解:西田典之・井田良の解釈

  • 西田典之『刑法各論』(弘文堂)
  • 井田良『刑法講義 各論』(有斐閣)

両著とも、賭博罪の構造を必要的共犯的に捉え、単独犯としての成立が困難であることを示唆している。


4. 海外サーバー型オンラインカジノの法的難点

現在のオンラインカジノの典型的な構造。

  • サーバーや事業者が海外に所在
  • 日本人ユーザーが日本からネット経由で参加
  • 通貨決済がカードや仮想通貨で完結

この場合、刑法が予定する「共同の犯罪者」が国外にいるため、日本法での処罰は、共犯処罰の前提を欠く構造となる。したがって、ユーザー側のみ処罰対象とするのは、刑法の基本構造や可罰的違法性に反する可能性が高い。


5. 結論──判例解釈の限界と制度的矛盾の立法的解消へ

本稿で取り上げたように、木曽氏が論拠とする最高裁昭和24年1月11日判決は、常習賭博罪と賭博場開張等図利罪の構成要件の独立性を確認したに過ぎず、単純賭博罪(刑法185条)の「必要的共犯」的性質──すなわち、賭博という行為が他者との相互的構造を不可欠とするという点──については、全く判断を示していない。にもかかわらず、当該判例をもって単純賭博罪における必要的共犯性を否定するというのは、明らかに法的射程を誤認した解釈であり、文理的にも体系的にも看過しがたい飛躍である。

単純賭博罪は、その実行行為が賭博の「提供」と「参加」という二者の不可分な関係性に依拠している以上、構造的に共犯的である。したがって、提供者(オンラインカジノ運営業者)が国外に所在し、我が国の刑法が原則として国外犯を処罰し得ないとする限りにおいて、その片方が処罰対象から脱落する事態が生じる。これにより、国内に残る「参加者」に対する処罰可能性にも根本的な疑義が生じる。まさに「違法であるが処罰できない」という、刑罰法規としての自律性と実効性を大きく損なう矛盾が制度上露呈しているのである。

この構造的欠陥は、現行の共犯論や国外犯処罰規定の解釈論的射程をもってしても、到底克服し得ない。木曽氏のように、解釈論に過剰な役割を託して刑罰の妥当性を論じようとする立場は、結果的に、刑事法の限界的状況を曖昧化することで、処罰と不処罰の境界を不明確にし、法秩序全体の予見可能性と信頼性を危うくすることになりかねない。

もはや、従来の枠組みによる技術的解釈の積み上げではなく、立法的手当による制度的刷新こそが求められている。特に、国外主体による賭博提供行為への国内法の適用可能性、オンライン空間における「賭博行為」の実行行為性の定義、そして必要的共犯構造における片面的不可罰が国内共犯に及ぼす法的影響などについて、明文の形で規律すべき時機に至っている。

以上を踏まえれば、現行刑法の賭博罪規定は、その立法時(明治30年)には想定され得なかった「サイバー空間」および「国境を越えた共犯構造」の出現によって、もはや制度的限界を超えている。刑罰法規の明確性と実効性を確保する観点からも、オンラインカジノを含む現代的賭博行為に対する刑事的規律の再構築は、喫緊の立法課題である。


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