【実録】2016年、京都府警が初の逮捕──オンラインカジノ利用者3人の“その後”と、不起訴と略式起訴を分けた境界線

三 海外で開設された無店舗型オンラインカジノで賭博したとして平成二十八年三月十日に京都府警察は単純賭博容疑で三人を逮捕したと報じられている。検察はそのうちの二人については略式起訴としたが、略式手続を受け入れず正式裁判で争う姿勢を見せた一人については不起訴処分としたと報じられている。
本件でこの一人が不起訴処分となった理由は何か、具体的に回答されたい。
三について
御指摘の三人に対する事件については、京都区検察庁において、いずれも、賭博罪により公訴を提起して略式命令を請求し、京都簡易裁判所により、罰金二十万円又は罰金三十万円の略式命令が発せられたものと承知している。
野球賭博問題を背景に、2016年3月10日、ついに個人宅でプレイしていたオンラインカジノ利用者にも捜査機関の手が及んだ。しかし、そもそも「賭博」とは、金銭を賭ける者(博徒)と、その勝敗に応じて利益を得る胴元の存在によって成立する行為ではないのか。
今回のように、海外で合法的に運営されているオンラインカジノを、単に日本国内から個人で利用しただけの行為にまで賭博罪が適用されるとなると、法の趣旨や構成要件との整合性に疑問が残る。
仮に起訴を可能にする余地があるとすれば、刑法186条2項の「賭博場開張図利罪」や「博徒結合図利罪」といった条文の援用だろう。しかしその場合、論理的には海外の運営主体(胴元)を日本国内での「共犯」や「図利者」として認定し、今回の利用者がその一部だったとする強引な構成が必要になる。
本当にそこまでの法的構成が成立するのか?
京都新聞によると、京都府警は、海外にサーバーがあるオンライン・カジノ(賭博サイト)に日本からアクセスし、ブラックジャックで金銭を賭けたとして、埼玉県の男性ら3人の自宅を強制捜査したということです。
捜査関係者の説明では、3人は2月、各自宅などで、海外にサーバーがある賭博サイト「スマートライブカジノ」にそれぞれ接続し、「ブラックジャック」で賭博をした疑いがあるという。同サイトのホームページによると、登録制で、「ブラックジャック」や「ルーレット」などで金を賭け、クレジット決済などで払い戻しができる仕組み。日本語版ページでは、日本人の女性ディーラーが登場し、チャットで会話しながらゲームができるという。
出典 京都新聞2016年3月10日3人の被疑罪名は、単純賭博罪(刑法185条)です。
刑法185条(単純賭博)
賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。
単純賭博罪は、日本国内で行われた場合にのみ処罰されますが、本件では海外のネットカジノへのアクセスが日本国内からであったため、犯罪行為の一部が日本で行われたとして〈国内犯〉の扱いになっています。このような法律の解釈じたいには特に問題はありません。しかし、彼らの行為を〈犯罪〉として処罰することにどのような意味があるのでしょうか。
初の無店舗型オンラインカジノ利用による逮捕事案
個人宅からオンラインカジノを利用した「無店舗型」プレイヤーの逮捕は、国内で初めてのケースとみられる。以下は、大手報道機関が伝えた事件の概要である。
報道したメディア
- 毎日新聞
- 京都新聞
- 読売新聞
- 産経新聞
- 時事通信
捜査を担当した機関
京都府警サイバー犯罪対策課
対象となったオンラインカジノサイト
スマートライブカジノ(Smart Live Casino)
逮捕された利用者
- 関根健司(65歳)― 埼玉県越谷市の制御回路製作会社経営
- 西田一秋(36歳)― 大阪府吹田市元町、無職
- 中島悠貴(31歳)― 埼玉県東松山市のグラフィックデザイナー
容疑とその内容
- 期間:2月18日〜26日
- 行為:スマートライブカジノに国内から接続し、ブラックジャックで現金約22万円を賭けた
- 決済手段:クレジットカード
供述内容
- 関根容疑者は「1,000万円ぐらい使った」と供述
- 3人とも容疑を認め、「海外サイトなら大丈夫だと思った」と話している
「逮捕=有罪」ではない 法的手続きの正しい理解が必要
「逮捕された=違法行為=有罪」と考えるのは誤解である。逮捕はあくまで「疑いがある」という段階であり、この時点では違法性も有罪かどうかも決まっていない。
次の段階が起訴であり、検察が「裁判にかけるだけの証拠がある」と判断した場合に行われる。逆に、証拠が不十分であれば不起訴となり、裁判自体が行われない。
裁判が始まれば、証拠や主張を踏まえて裁判所が最終的に有罪か無罪かを判断する。有罪が確定して初めて、その行為は「違法だった」と法的に断定される。
特に、オンラインカジノのように海外で合法とされるサービスについては、日本の法律で違法といえるかどうかは極めて曖昧である。実際に起訴や有罪とするには、法的根拠と明確な証拠が必要となる。
海外オンラインカジノは合法運営 店舗型とは本質が異なる
多くのオンラインカジノは、海外の政府からライセンスを受けて合法的に運営されている。日本国内で運営すれば賭博罪の対象となるが、国外で運営されている限り、日本の刑法が直接適用されるとは限らない。
一方で、日本国内で摘発された「店舗型オンラインカジノ」は、実際には店内で客に海外カジノをプレイさせ、換金手段を提供していた点が違法と判断された。これはカジノの提供ではなく、違法な換金システムの運営に該当する。
見た目はオンラインカジノと似ていても、法的構造は全く異なる。合法に見せかけた実態が問題視されたのであり、海外合法カジノとは一線を画す存在である。
略式起訴か不起訴か?国会答弁から読み解く事実
2016年に京都府警が摘発した、個人宅からプレイする無店舗型オンラインカジノ事件について、一部報道やネット上では「3人のうち1人が略式手続に異議を申し立て、不起訴になった」とする情報が流れている。
しかし、令和2年2月28日に受領された政府の国会答弁(答弁第61号、安倍晋三内閣)では、次のように明言されている。
衆議院議員丸山穂高君提出「オンラインカジノに関する質問」に対する答弁書において、「平成28年に京都府警察が逮捕した者3人全員が略式起訴され、罰金刑を受けた」と記載されている。
つまり、公式には3名全員が略式起訴されており、不起訴になった者はいないというのが政府答弁による事実認定である。
ネット情報は慎重に。正確な知識は一次情報から
このように、事件の処分結果については、ネット上の情報と政府の公式回答とで食い違いがある場合がある。正確な情報を得るには、国会答弁、判決書、検察庁の発表など、一次情報にあたることが重要である。気になる事件があれば、裁判所で判決文を閲覧することもできる。
ネットの断片的な情報を鵜呑みにせず、自分で調べ、確認する姿勢が求められる。特にオンラインカジノのように法律上の判断が複雑な領域では、正確な知識が重要である。
実際、オンラインカジノに関しては不起訴となった事例も多く存在する。以下の記事では、実際に不起訴処分となった事案を詳しく紹介している。
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