令和ロマンのオンラインカジノ賭博報道|単純賭博罪は成立するのか?公訴時効3年の壁と『無罪』なのかを徹底検証

公訴時効とは何か?──芸能人の謝罪会見の陰にある「時効」という現実
2025年2月、人気お笑いコンビ「令和ロマン」の高比良くるま氏が、自身のYouTubeチャンネルでオンラインカジノ賭博の事実を認め、謝罪する動画を公開しました。報道によれば、同氏がオンラインカジノを利用していたのは2019年末から2020年末ごろまでの約1年間とされています。
もし仮にこの賭博行為が日本の刑法上の『単純賭博罪』(刑法185条)に該当するとすれば、気になるのは時効の存在です。単純賭博罪の公訴時効は3年と定められており、行為の終了時点から3年以上が経過していれば、原則として起訴はできません。
実際、高比良氏が自らの行為を公表し、謝罪したことで大きな社会的影響は受けましたが、刑事事件として処罰されるかどうかは、すでに『公訴時効を過ぎているか否か』という法的な分岐点に達していた可能性があります。
このようなケースを前提にすると、そもそも公訴時効とは何か?
また、時効が成立するとは「無罪」になるということなのか?
さらには、時効後に自首した場合は逮捕されるのか?
こうした点に対する正確な理解が、社会的な議論や報道の受け止め方を左右しかねません。
以下では、刑事事件における公訴時効について、オンラインカジノの現状や実例もふまえながら、よくある7つの疑問に答える形で整理していきます。
公訴時効に関する基礎Q&A
Q1. 公訴時効とは何か?
刑事事件において、一定の期間が経過すると検察官が起訴できなくなる制度のことです。
刑事訴訟法250条以下に定められており、長期間経った事件については、証拠の散逸や人権保護の観点から起訴が制限されるものです。
Q2. 公訴時効が成立したというのは、無罪になったということですか?
いいえ、公訴時効の成立は「無罪」とは異なります。
起訴されていないため『前科がつくわけではない』一方で、『冤罪が証明されたわけでもない』という中立的な状態です。あくまで「起訴できない」という形式的な処理に過ぎません。
Q3. 公訴時効が過ぎて自首した場合は逮捕されるのか?
原則として逮捕されません。
刑事訴訟法254条により、時効完成後は検察官が公訴を提起することができず、仮に本人が犯罪事実を告白し、証拠が明白であっても、処罰の対象にはなりません。
Q4. 海外渡航で時効は止まるのか?旅行でも?
はい、刑事訴訟法255条により、犯人が国外にいる間は時効は停止します。
逃亡目的か否かは問われず、海外旅行、留学、出張など、理由にかかわらず『日本国外にいる期間』は時効の進行が一時中断され、計算に含まれません。
Q5. 時効が完成していることは、どうやって証明されるのか?
検察官が犯罪事実と時効起算点、経過期間を調査し、起訴が可能か判断します。
実際には、犯罪発覚の時点や犯行の終期をどう認定するかが争点になることもあり、事案ごとに個別の検討が必要です。
Q6. 一度成立した公訴時効が、後から再開することはあるのか?
基本的にはありません。
ただし、過去に国外渡航していた事実など『時効が停止していた事情』が後から判明した場合には、実質的に「時効が成立していなかった」として扱われることがあります。
Q7. 起訴された後に「実は時効だった」となることはあるのか?
あります。
刑事訴訟法339条1項2号により、時効完成が判明した場合には『公訴棄却』という形で裁判所が起訴を無効とすることができます。
これは証拠能力の問題ではなく、手続的瑕疵により裁判が継続できなくなるというものです。
お笑いコンビ、令和ロマンの高比良くるま(30)、松井ケムリ(31)が15日、自身のYouTubeを更新。一部で報道された、オンラインカジノで賭博をした疑いがあるとして、くるまが任意で事情聴取されていることについて、言及した。
「オンラインカジノ報道について」の題名で動画をアップ。くるまは「オンラインカジノにまつわる事情聴取を受けたという記事により、大変お騒がせしてしまい、大変申し訳ありませんでした」と切り出し、頭を下げた。
「今回記事にあった通り、オンラインカジノをしていたというのは事実です」とした上で経緯を説明。「2019年末、大学時代の知人から誘いを受けまして、海外の口座から送金して、それでいてオンラインカジノをやっているのは違法ではないという説明を受けまして、なおかつインターネット上で広告が上がっていて、そういった広告というのもありまして、こちらとしても違法ではないという認識をしてしまい、オンラインカジノをしておりました。2020年末ほどまで1年間ほど続いておりましたというのが私から申し上げられる事実でございます」と語った。
そもそも単純賭博罪が機能していないという現実
そもそもオンラインカジノの利用が、常に単純賭博罪に該当するという前提自体が、現行法のもとではあまりに不安定です。
例えば、2024年に佐賀県内の警察署に勤務する巡査が、勤務中にオンラインポーカーをプレイし、現金を賭けていたとして書類送検された事案がありました。ところが、2025年に入ってこの事件は不起訴処分となりました。警察官であっても、不起訴になる。しかも、勤務時間中でありながら、です。
その理由は明かされていませんが、考えられる要因の一つは、ポーカーが単なる運任せの賭博ではなく、プレイヤー同士がスキルで勝敗を競う「対人ゲーム」であるという点にあります。つまり、「偶然性」を本質とする従来の賭博概念と、オンラインポーカーやeスポーツに近いゲーム的性質とが混在し、法的評価が揺らいでいるのです。
こうした前提のもと、「3年前に終わったオンラインカジノの利用なら時効が成立しているから、もう起訴できない」という状態になると、社会的にどう見えるでしょうか。
見つからなければいい。3年過ぎれば大丈夫。逃げ切り上等のモラルハザードが、現実に広がりつつあるのです。
必要なのは刑罰の強化ではなく、法制度のアップデート
オンラインカジノは、もはや境界の曖昧な法域にとどまる存在ではありません。仮想通貨を使った送金、CDN(コンテンツ配信ネットワーク)によるインフラの分散化、VPNによるアクセス元のマスキングなど、利用実態はかつての「賭場に集まる博徒」のイメージとは程遠いものです。
これに加えて、公訴時効が3年と短いため、起訴までにたどり着くのが難しいケースが現実に存在します。たとえば、仮想通貨を使った送金で履歴が完全に匿名化されていたり、海外のカジノサイトでのプレイ記録が削除されていた場合、違法行為を立証する手段そのものが残っていない可能性があります。
その結果、「3年前に終わったオンラインカジノの利用なら時効が成立しているから、もう起訴できない」という状況が、特に著名人などの事案で表面化しやすくなっています。
見つからなければいい。3年過ぎれば大丈夫。逃げ切り上等のモラルハザードが、現実に広がりつつあるのです。
犯罪の線引きが曖昧で、起訴されるか否かは事案ごとにバラバラ。しかも、公訴時効が短すぎて、実際には起訴までたどり着かない事案も少なくない。これでは法の支配ではなく、偶然と運と恣意性に支配された「運用主義」です。
必要なのは、「厳罰化」ではなく、明確なルールと、透明な手続きです。
オンラインカジノの規制については、賭博罪の適用だけでなく、新しい形のライセンス制や、監視体制、違法業者の明示的な認定制度といった、現代に即した構造改革が求められています。
時効で逃げられる社会を続けるのか。
それとも、誰にとっても明確で、公平な法制度にアップデートするのか。
私たちが考えるべきは、その一点です。
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